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日本経済新聞 平成26年2月16日朝刊“春秋”記事抜粋

「世界一」や「勝利」の価値とは何か。作家の森博嗣氏が随筆で考察している。敗者から何かを奪い、彼らの不幸を見るのが楽しいのか。それでは精神が貧しい。自分をコントロールし、努力と鍛錬を続けられたことに楽しさや喜びを感じるのだろう。森氏はそう記す。

▶︎選手が戦う相手は自分であり、舞台は競技場だけではないということだ。ソチ五輪フィギュアスケートで羽入結弦選手が優勝した。しかし直後の言葉は「金を取って言うのも何だけど、悔しい」。思い描く演技ができなかったのだ。日の丸勢に待望の金、と茶の間で浮かれた大人も、19歳向上心に思わず位住まいを正す。

▶︎一方、ケガに悩まされつつ最後の大舞台に臨んだ高橋大輔選手は6位。「これが僕の実力。気持ちをこめて滑ることができた」と笑みを浮かべた。そんな若手が仰ぎ見てきたロシアのプルシェンコ選手は、競技直前に腰痛でまさかの棄権。「最後までトライしたことはわかってほしい」と言い残し、競技人生に幕を引いた。

▶︎「勝利を気高く祝い、敗北を気高く受け入れる」。国際オリンピック委員会のバッハ会長は開会式で、五輪の精神をそう語った。優勝すら挑みのバネにする若者。笑顔の6位。燃焼の末の、無念な引退。彼らだけでない。ほかの誰でもない、自分自身と闘い続けた選手たち。自らに与えるメダルがあるなら、何色だろう。

以 上

 

 

 

 

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